宇波彰現代哲学研究所

多種多様な「知」の交流を通じ文化創造との実践的な橋渡しをめざし、新たな学問分野の開拓を行う研究機関のブログです。

金時鐘『朝鮮と日本に生きる』とチェジュ島

 2015年の大佛次郎賞は、金時鐘の『朝鮮と日本に生きる』(岩波新書)に決まった。大いに慶祝したい。この本は,岩波書店の雑誌「図書」に連載されていたものをもとにしている。私は「図書」連載中、毎号欠かさずに読んだ。
 本書は、韓国チェジュ島(済州島)において、1948年に始まった,いわゆる「4・3事件」を重要なテーマにしている。チェジュ島に「皇国少年」として育てられた金時鐘の体験と、政治的事件とが重なって記述される。個人の記憶と集団の記憶が交錯し、極度の緊張感が伝わってくる。
 4・3事件は、チェジュ島の民衆の反権力の闘争である。本書を読むと、権力の力と民衆の力の衝突がわかってくる。ソレルは,その『暴力論』で、「力が上から下へと働くときは権力であり,下から上へと働くときは暴力である」と述べたという。(寺山修司は,このソレルのことばを繰り返して引用している。)4・3事件は、まさに権力と暴力の激突した事件であった。最近刊行されたムン・ギョンス『新・韓国現代史』(岩波新書)でも論じられている。
 しかし、「4・3事件」がどういう事件であったかを知っているひとは多くないであろう。数年前、チェジュ島を訪れたとき、タクシーで「4・3記念公園」に行ったが、運転手に「どうして日本人のあなたがこの事件のことを知っているのか」と、何度も聞かれた。私が金石範の長編小説『火山島』を読んで知ったと答えると,それは韓国でも訳されていると教えてくれた。
 4・3記念公園は、公園という名称であるが,実は博物館でもある。日本語のパンフレットも置いてある。庭には、ベルリンの壁の一部分が置かれてある。南北朝鮮の統一を願うという意味かもしれない。この公園は,進歩派であったノ・ムヒョンが大統領の時代に作られたものである。
 チェジュ島に行く機会があるひとには、金時鐘の本書を読んでおくことをおすすめしたい。また、4・3記念公園をぜひ訪れてほしいと思う。(2015年12月30日)

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IS問題と聖ゲオルギウス

 ヨーロッパに行くと、いたるところに「聖ゲオルギウスとドラゴン」の像がある。1980年代に,私はギリシアのテッサロニキの土産物屋で、小さなイコンを買ったが、あとで見るとそれも「聖ゲオルギウスとドラゴン」の図像であった。2015年10月に私はプラハに行ったが、王宮の広場に「聖ゲオルギウスとドラゴン」の銅像があり、またその近くにある「聖イジー聖堂」の「イジー」が、ゲオルギウスのことであるのを知った。
 多くのばあい、ゲオルギウスは馬にまたがり、長い槍でドラゴンを殺そうとしている。この構図は,ルネサンス以降の多くの作品でも踏襲されている。またそのドラゴン退治の場面には,一人の若い女性の姿があるのが普通である。
 ゲオルギウスは、紀元3世紀の人で、キリスト教の伝道に努めたが、ローマ軍に捕らえられ、鋸で切られて処刑されたと伝えれている。ゲオルギウスについては、さまざまな伝承があるが、そのなかで最も有名なものは、彼によるドラゴン退治である。若い女性を毎年食べに来るドラゴンを退治した話は,スサノオの八岐大蛇退治の物語と似ている。その伝承に従って、「聖ゲオルギウスとドラゴン」の図像では、若い女性が、ゲオルギウスのかたわらに立っているということになる。

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