宇波彰現代哲学研究所

多種多様な「知」の交流を通じ文化創造との実践的な橋渡しをめざし、新たな学問分野の開拓を行う研究機関のブログです。

大本営発表の精神技法

 福島原発の崩壊に関する政府・東電の発表があてにならないとして、「大本営発表」のようだとしばしば批判されている。それでは「大本営発表」とはどういうものか、一例を挙げて若い人たちの参考に供したい。
 昨年、私の友人である小林武夫さんの「M少尉の思い出」というエッセーがこのブログに載った。私が付言したように、それは特攻隊員だった森本秀郎少尉のことを語ったものである。森本少尉は、八紘隊という特攻隊の一員として、1944年11月27日にフィリピンで戦死した。その二日後の11月29日に、次のような大本営発表があった。

「大本営発表 昭和19年11月29日14時 
我特別攻撃隊八紘飛行隊7機を以て11月27日レイテ湾内の敵艦船に対し果敢なる攻撃を敢行し次の如く敵艦船10隻を撃沈破せり
轟撃沈 戦艦1隻 大型巡洋艦 3隻
大型輸送船 4隻
大破炎上 船艦または大型巡洋艦 1隻 大型輸送船 1隻
我援護戦闘機3機未だ帰還せず」

 このあとに、攻撃に参加して戦死した隊員10名の名前が記されている。この当時の特攻では、特攻機のほかにその攻撃を援護する戦闘機が付いていたので、7機の特攻機と、未帰還の3機の乗組員の名前が並んでいたと推測される。この攻撃で使われた戦闘機は一人乗りの「隼」であった。この「隼」は、以前に私が「都市基本問題研究会」の調査で訪れた、群馬県太田市にあった中島飛行機が製造した戦闘機である。その設計には、糸川英夫も加わっていたというが、小惑星探査機の「はやぶさ」という名称は、戦闘機「隼」と関係があるのかもしれない。
 それはともかく、この大本営発表によると、一人乗りの小さな戦闘機7機で、8隻の敵艦船を轟撃沈し、2隻を大破炎上させることができたことになる。アメリカ軍の正式の発表によると、その「特攻」によるアメリカ海軍の損害は、駆逐艦1隻が沈没、そのほかに3隻が軽度の損傷を受けたということである。
 戦争中、軍部は日本軍が劣勢であることを何とか隠そうとしていた。戦争の真相を多くの日本人は知らないままであり、大本営発表を知って喜ぶのが普通の日本人であったと思われる。政府にとって不利なこと、都合の悪いことを国民に知らせないでおきたいという「精神技法」が、福島原発に関する情報についても、同じように用いられている。
 5月29日の東京新聞に谷口尚子さんの新聞批評が載っている。そのなかで谷口さんは、原発事故についての東電の姿勢を検証した東京新聞の記事について、次のように書いている。「この検証記事を読んで、<異常>を<異常>と認めない、あるいは自分に都合の悪い事態を認めない心、すなわち<正常化の偏見>(ノーマルシー・バイアス)という心理作用を思い出した。」  「正常化の偏見」(normalcy bias)が、戦争中も、そして今も根強くはびこっている。(2011年5月31日)

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