宇波彰現代哲学研究所

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オスロから六本木へ

 政治的右翼は、地域・時代によって様相を異にする。ノルウェーのいわゆる「連続テロ事件」について、7月30日の読売新聞は、次のように書いている。「欧州の極右の動向に詳しいマシュー・グッドウィン英ノッティンガム大学講師は、<ブレイビック容疑者は極右の間ですでに”英雄”扱いにされている>と指摘し、模倣犯の出現を懸念している。」
 このマシュー・グッドウィンはまだ30前の若いアカデミシャンであるが、この記事にもあるように「極右の動向に詳しい」ひとであり、今年の4月に英国国民党についての研究『イギリスの新しいファッシズム 英国国民党の興隆』(Matthew Goodwin,New British fascism,rise of the British National Party,Routledge,2011)を刊行した。英国国民党(the National Party)は、最近特に勢力を拡大しつつあるフランスの右翼政党である国民戦線とつながるイギリスの極右政党であり、英国議会では議席を持っていないが、欧州会議では、イギリスが持つ72議席のうち、2議席を占めている。イギリス国内でも、地方議会には少ないながらも議席がある。この国民党幹部は、2009年にフランスの国民戦線の幹部と共に靖国神社に参拝している。
 イギリスの新聞「オブザーバー」(7月28日 電子版)は、クリス・アーノットによるグッドウィンについての記事を載せた。それは、この若いアカデミシャンが、反ファッシズムの立場からイギリス極右の研究をしていることを伝えている。それは、ノルウェーの事件を、イギリスにとってけっして「対岸の火事」として扱わないという態度の表明として読むことができるであろう。
しかし、イギリスとフランス、ノルウェー、そしてドイツ、オーストリアでは、それぞれ「右翼」もしくは「極右」が異なった姿を示しているのは当然のことである。フランスの国民戦線は、勢力の拡大と共に、暴力的な要素を隠しているように見える。大統領選挙に候補者を出そうとする政党ならば、「暴力」を隠すのは当然である。ノルウェーの「極右」が、いきなり「テロ」に走ったのは、それがまだ政党化していないからではないだろうか。一口に「右翼・極右」といっても同列に論じることは困難である。

 それでは、日本のばあいはどうなっているのか。日本の右翼は、テロ事件を起こしたり、フランスの国民戦線と姉妹政党を作ったりはしていない。その本当の動きは、見えてこないが、教科書採択問題に一つの鍵があるように思われる。
最近、横浜市、東京都大田区、大田原市などの教育委員会が相次いで育鵬社の中学校の歴史・公民の教科書の採択を決めたことに注目したい。6月22日の産経新聞(電子版)によると、大阪府の橋下知事を代表とする「大阪維新の会」の大阪市議団は、育鵬社、自由社の教科書を採択するように求める決議案を9月定例市議会に提出することを決めたという。
 育鵬社の教科書が、どういうものかについては、その企画委員、編集委員の顔ぶれを見れば、およそのことは理解できるであろう。歴史教科書の監修者は、渡部昇一、伊藤隆、渡辺利夫、岡崎久彦、田中英道の各氏であり、歴史教科書の監修者は、渡辺利夫、川上和久、中山理、百地章、石井昌弘、礒前秀二、八木秀次の各氏である。このなかで産経新聞の「正論」の執筆メンバーが多いのが注目される。要するに、日本の代表的な右派の学者を集めた執筆陣である。
 この育鵬社の教科書作成の母体は、「日本教育再生機構」という組織である。この組織が、去る5月10日に六本木のハリウッドホールで「育鵬社版歴史・公民教科書出版記念シンポジウム」を開催したが、その「登壇者」は、安部晋三、川上和久、八木秀次、伊藤隆、屋山太郎の五人であった。「教育再生」が何を再生させようとしているかは、このメンバーから推測可能である。日本の右翼は、教科書を媒介にして、徐々にその勢力を拡大しつつあるというべきであろう。

(付記。なお私は、ここで述べたことと関連する問題について、雑誌「情況」6/7月合併号に「原発事故の裏側にあるもの」という小文を載せた。ぜひ併せて読んで頂きたい。日本の知識人の頂点に存在するはずの元東京大学総長の方々が、東電・東芝の重役に天下りして、原発に関して権力・大企業擁護の御用学者の先頭に立っていることを批判したものである。2011年8月8日。)

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