宇波彰現代哲学研究所

多種多様な「知」の交流を通じ文化創造との実践的な橋渡しをめざし、新たな学問分野の開拓を行う研究機関のブログです。

ファイニンガー展とそのカタログ

ライオネル・ファイニンガーというドイツ系アメリカ人の画家は、日本ではあまり知られていない。私は1990年に、赤坂にあったマルボロ・ギャラリーでファイニンガーの作品を見たことがある。(このギャラリーではフランシス・ベイコン展も開かれたことがあり、それも見た記憶がある。)また最近では、東京芸術大学美術館で行われたバウハウス展でファイニンガーの作品を見て、その作品の絵はがきも買った。今年の8月から、横須賀美術館(山本理顕の設計)で大規模なファイニンガー展が開かれたので、9月上旬のまだ暑い日に行ってみた。そしてこの画家がアメリカで新聞マンガを描いていたことを初めて知った。
私にとって最も印象的だった作品は、1910年に描かれた「この世界の果てにある都市」である。本当に世界の突端のような場所に十数軒の家が建っている。そこで描かれている家々は、ファイニンガーが1921年に作ったというおもちゃの家と同じ外観である。

このファイニンガー展のカタログは、本当にすばらしいものである。横須賀美術館のあと、この美術展は愛知県美術館、宮城県美術館でも開かれるそうであるが、この三つの美術館の学芸員の方々が情熱を込めて作ったカタログであるように思われる。古田浩俊の「日本のファイニンガー」、西村勇晴の「ファイニンガーの日本、あるいはジャポニスム」は、いずれも秀逸なエッセーである。また、それぞれの作品についての解説もたいへんすぐれたもので、たとえばすでに言及した「この世界の果てにある都市」についての後藤文子の解説は、珠玉のように輝いている。彼女は、ファイニンガーのこの作品をクービンの空想小説『対極――デーモンの幻想』の舞台と重ねて論じているが、その叙述は並みのものではない。この作品を右のページに、そしてこの作品で描かれている家々と同じかたちのおもちゃの家の写真をその左のページに並べるレイアウトの巧みさには感嘆するばかりである。

またこのカタログの巻末には、後藤文子編「ライオネル・ファイニンガー国内主要文献」が収められているが、それを見ると、「日本では有名でない.」という私の感想がまちがっていたことがわかる。多くの人たちがファイニンガーについて論じたり、語ったりしていることがわかったからである。今文献目録で、私が以前にこのブログで言及したことのあるピーター・ゲイも、その『ワイマール文化』のなかでファイトニンガーを論じていることを知った。何人かの若い友人たちに是非見に行くようにと勧めたところ、早速そのうちの一人から「悪天候の日に出かけたので、ほとんど貸し切り状態で楽しんだ」という便りがあった。 (2008年10月1日)

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