宇波彰現代哲学研究所

多種多様な「知」の交流を通じ文化創造との実践的な橋渡しをめざし、新たな学問分野の開拓を行う研究機関のブログです。

佐藤嘉幸『権力と抵抗』を読んで その3

「私を侵す者」を無条件に歓待し、それを「差し迫った」政治的厳命、と断言してしまうことは、未分節の領域における極限であると言える。
極限は、どちらも恐ろしい。そして、どちらも心の密室性を保証してくれるわけではないのなら、「権力/抵抗」の二分法において安易にどちらかを批判し、どちらかを称揚することはできなくなるのではないか。著者はそれについてどう考えるのか分からない。ただ、p.131には「権力の内面化」という表現があるのだが、それ以降、内面化した権力や内在化した権力、というニュアンスの単語は見られなくなっていき(権力は外部にあるかのように描かれる)、抵抗に与する概念として、「内在性」という言葉が見られるようになっていく。そうした表記は、どこか権力と抵抗に通底するものがあるから求められたものではないかと勘繰ってしまう。
権力/抵抗は、優劣を含んだ二項対立であり、人間が無媒介的に何かを手に入れられないことをそこまでペシミスティックになったり、抵抗をやたらと言祝いだりする現代思想の流行りのマナーについて考えてみることも重要ではないだろうか。権力/抵抗という優劣を含んだ二項対立もまた、脱構築され得るのではないだろうか。
無論、哲学的な議論はどれも極限的な思考を取り扱い、拒食症にならないために過食症になる、というような形でしか議論は進められないのかもしれない。だから、私のこうした指摘は、わざわざ怪獣映画を見に行って、怪獣の気ぐるみの背中にあるジッパーを探すような、そういう野暮天な態度なのかもしれない。
ただ、すでに述べたように、抵抗も「差し迫った」政治的厳命というときには権力と同様の恐ろしさを感じさせるということ。約束事や秩序を通じて享楽を見出すことはそれほど悲観すべきことでもないということ(隷従することに喜びを見出せというのではなく、それらを通じて世界が豊かになることもあるだろうし、何ものにも媒介されないような純粋で直接的な真理や享楽を措定するのは危険だということだ)。以上のようなことは感想として述べておきたい。極限的な思考である哲学的概念と、日常的実践の間に架橋するとしたら、その時は、「まあ、ちょっと、いいじゃないの」という日本人的曖昧さも必要になるのだろう。
権力的領域に身を置くときに、抵抗についての理論があるということは、何かに追い立てられて生きねばならない我々に、一息つく安息の場所を与えてくれるだろう。しかし、抵抗が我々を追い立てるということになっては本末転倒ではないだろうか。その時は、社会的な約束事などが一息つく場所になるのだろうか。抵抗としての態度や行動にのみ価値を与えたり、純粋主義的に厳格な態度で抵抗概念を遇するのは、実践においては非現実的であるように思われる。無媒介的で崇高なものを前提とした、純粋主義的な態度は、暴力や抑圧を是認しかねない。だから私は、崇高な理念について語る大学の先生が、クラブで華美な女性にブランド物のバッグ(記号的価値を持つ)をプレゼントしていても、「ああ抵抗概念から離れて一息ついているのだ」と思って、とやかく言うことはしないでおこうと思う。
本書の感想から離れてしまったようだが、これは現代思想の潮流に関わることであり、本書『権力と抵抗』にも脈打つものであると思う。
また、ずいぶん後回しになってしまったが、本書で扱われたアルチュセールの「偶然性」については個人的に多くを学ばせてもらった。アルチュセールは、その名高い論文「イデオロギーと国家のイデオロギー諸装置」において、マルクス主義やスピノザ主義という科学的立場に立てば、イデオロギーのような想像的歪曲の外側に立てるかのように書かれている(『再生産について』西川長夫他訳、平凡社、2005年初版、p.367などを参照)。このことから私は、理論的言語を用いれば、世界の現実に直接に触れ得て、また、理論的言語は世界を余すところなく分節し説明しきることができるとアルチュセールは考えているのではないか、という印象を持っていた。しかし、この『権力と抵抗』という著作では、アルチュセールの「偶然性」概念や、アルチュセールがマキャヴェリを評価する理由などが説明されており、アルチュセールもまた、理論的言語では捉えきれない何かを射程に入れているということが、よく分かった(ように思えた)。
本書は、門前の小僧、とはいかないまでも、門をくぐって最初の一歩をさあ踏み出そうとする私のような竪子にとって、大変に有益でエキサイティングな書物であった。学問に専門的に関わらないまでも、新書サイズの入門書を一通り読んで、現代思想についてさらに知りたいという熱心な読者にも応えてくれる、緻密さと広範さを持った書物である。学術論文であるが、現代思想の概観を掴みたいという熱心な読者にとっても、格好の入門書、解説書になりうると言えるだろう。



文責     土佐巌人

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

こんにちは

頑張って下さい!!
応援、ポチ、ポチ。
また来ますね!!!

元塾講師中里によるアフィリで楽しく毎日が給料日 | URL | 2009年02月07日(Sat)12:57 [EDIT]