宇波彰現代哲学研究所

多種多様な「知」の交流を通じ文化創造との実践的な橋渡しをめざし、新たな学問分野の開拓を行う研究機関のブログです。

ビジネスホテルの新聞

去る2月中旬に、都市基本問題研究会は、茨城県の県庁所在地である水戸市に於いて調査を行なった。この研究会の前身は「シャッター通り研究会」であるが、名称に問題があるという意見を聞いたので、あわてて名称変更をした。  水戸へは何度も訪れている。磯崎新の設計した水戸芸術館を、建築史家のM氏たちと訪れて、設計の思想の高さと、工事の程度とのズレを実感し、そのことを建築系の雑誌に書いたことがある。しかし今回は水戸芸術館へは行かず、茨城県立近代美術館で開かれている安田靫彦(ユキヒコ)展を観に行ったのである。この催しについても書きたいことがあるが、ここではそこに行き着くまでに感じ、考えたことを記しておきたい。
一泊するつもりだったので、インターネットで安いホテルを探すと、駅の近くに水戸プリンスホテルがあり、朝食付きで6000円だというので予約した。ネットで予約するといくらか安くなるらしい。ホテル代だけではなく、いたるところで「ネット割引」がある。またJRでグリーン車の券は、車内で車掌から買うよりも、ホームにある自動販売機で買う方が安い。(グリーン車に乗ったわけではない。)つまり、人間の手を借りないで、機械に頼む方が費用がかからないということらしい。このようにしてわれわれは、次第に機械に頼るようになり、人間を不要とする社会をつくっているのである。
さて、この水戸プリンスホテルは、駅のすぐ近くにあり、建物はやや古い感じはするが、とにかく安く泊まれるし、フロントの応対もなかなかテキパキしている。レストランも、けっして高級ではなく、むしろ「食堂」といった感じだが、その方が私にとっては安心感がある。そのレストランで食事をしていた人たちはすべて男性で、出張してきた若いビジネスマンたちのように見えた。  このホテルはさまざまな「サービス」を提供しているが、そのうちのひとつに「朝刊無料」がある。キリスト教徒が朝の祈りをするように、哲学者は朝になると新聞を読むのだというようなことがヘーゲルのことばとして伝えられているが、私も新聞を隅から隅まで読むのが好きである。ところがこのホテルが無料で提供している新聞は産経新聞だけである。ほかの新聞もフロント横に置いてはあるが、それは有料である。つまりこのホテルは産経新聞をたくさん買って客に配っていることになる。以前にも書いたことがあるが、東村山市の拙宅の近くにあるコンビニ(これも西武系)で買える新聞は、読売・産経とスポーツ新聞であり、朝日・毎日・日経はなかったことがある。こういうことは、コンビニやホテルを場とした一種の情報操作ではないだろうか。  かつてアメリカの社会学者ダクラス・ケルナーが「メディア・カルチャー」という考えを示したことがある。現代人のアイデンティティは、その人を取りまくメディア状況によって形成されるという説である。そのメディア環境を誰かが意図的に作っているのだ。
産経新聞はとても面白い新聞である。しかしそこで展開されている意見、特にその「正論」のコラムニスト(?)たちの見解だけを正しいと思うのはまちがいである。このホテルに泊まって無料の産経新聞を読んでいるビジネスマンたちのメディア・カルチャーは、誰が作っているのだろうか。



(2009年3月16日)

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コメント


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朝食付きで6000円でしたら、かなり安いですね。
宇波先生もネットでホテルをお取りになるとは、さすがです。
しかし、サービスの新聞はその値段では致し方ないのではと思います。
多分、ホテル側と産経新聞が何らかの契約の上でそのようなかたちになっているのでしょう。
裏返せば、それだけ新聞業界もかなり経済的苦しい立場に置かれているということの表れでしょう。
私は以前、某新聞社で記者として働いておりましたので、そこらへんの事情もよくわかります。
官公庁や、特殊法人などには無料で配布しておりましたから。
「このホテルに泊まって無料の産経新聞を読んでいるビジネスマンたちのメディア・カルチャーは、誰が作っているのだろうか。」
大丈夫ですよ。そこに永住されている方はいませんから。
あくまでも、仕事の滞在ですし…。

木田原 形而 | URL | 2009年03月28日(Sat)01:04 [EDIT]