宇波彰現代哲学研究所

多種多様な「知」の交流を通じ文化創造との実践的な橋渡しをめざし、新たな学問分野の開拓を行う研究機関のブログです。

山本五十六元帥の肖像

3月上旬に行なった水戸での都市基本問題研究会(「シャッター通り研究会」を改名した)の調査報告の続編である。水戸には、茨城県立近代美術館がある。吉村順三が設計したすぐれた建築である。ここで日本画家の安田靫彦(ユキヒコ)の作品が展示されていると聞いたので観に行ったのである。安田靫彦はいわゆる歴史画で知られている画家であり、「額田の女王」を描いた作品は切手にもなっている。観ていて気づいたのは、その歴史画のテーマが日本だけではなく、中国にも及んでいることであり、私にとって未知の題材があって、中国の歴史・文化についての不勉強を思い知らされた。
私にとって印象的だったのは、「山本五十六元帥像」(1944年)である。なぜこの作品が私にとって印象に残ったかというと、ひとつにはこの展覧会の企画者があえて安田靫彦のいわゆる「戦争画」も展示に加えようとしたことに敬意を感じたからである。もうひとつは、この作品の構図が、東郷平八郎の有名な姿とあまりにも似ていることであった。東郷平八郎の有名な肖像は、日露戦争のときの日本海軍の旗艦三笠の船上に立つ姿を描いたものであるが、安田靫彦の「山本五十六元帥像」は、やはり軍艦の上にいる司令長官の姿を描いている。東郷平八郎像の作者をまだ私は調べていないが、二人の連合艦隊司令長官の肖像は、あまりにもよく似ている。たまたま私は、ジャック・ラカンの「反映像」(image speculaire)という概念について考えていたので、この二つの肖像は、まさに反映像ではないかと考えた。
私はこのことからさまざまなことを考えたが、すぐに想起したのは田中日佐夫の名著『日本の戦争画』(ペリカン社、1985)のことであった。この著作にも、「山本五十六元帥像」に触れたところがあり、そこではこの作品には「肖像画として佳作であるが、<聖戦美術>であったことは間違いない」という評価が与えられている(P.154)。「聖戦美術」とは、戦争協力の作品ということであるが、それはけっして単純な問題ではない。またかつて板橋美術館で観た「日本のルポルタージュ展」の何点かの戦争画のことも思い出された。「山本五十六元帥像」を見て私は、芸術家や学者が、自らを時代の状況へと疎外していくばあいがありうることを改めて感じたのである。横尾忠則が、国家基本問題研究所のロゴマークをデザインしたのと同じ問題がここに含まれている。
(2009年3月27日)

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