宇波彰現代哲学研究所

多種多様な「知」の交流を通じ文化創造との実践的な橋渡しをめざし、新たな学問分野の開拓を行う研究機関のブログです。

鮒ずしのグローバル化

去る4月中旬に、都市基本問題研究会の調査のため、滋賀県南東部にある日野に出かけた。「近江商人」で有名なところであり、彼らの活動を示す小さな記念館もある。例によって町の中をぶらぶら歩いていくと、食料品店のようなコンビニのような店があり、ミネラルウォーターを買おうと思って入った。店の一角に鮒ずしが置いてあった。以前には魚屋だった店がコンビニになったのではないかと思われた。いま地方都市の普通の商店は、コンビニになるか、都市の郊外に作られる巨大なスーパーストアに負けてつぶれるかという二者択一を迫られている。ちいさな商店で買い物をしてきた老人たちは、郊外のスーパーに行くための車がなければ生活そのものが成り立たなくなる。いまや限界集落は大都市のなかにも形成されつつあり、限界共同体ということばも散見される。実際、私の住んでいる東村山市の一角の住宅街でも、知り合いの高齢者がしだいに亡くなって、一人暮らしの家が増えつつある。こういう状況をどう考えるかというところにも、都市基本問題研究会の課題のひとつがある。
私は鮒ずしというものを、誰かから頂戴して一度だけ食べたことがある。琵琶湖に棲むニゴロブナを使って作る高価な食物である。日野のコンビニで売っていた長さ10㌢ほどの鮒ずしは5000円であった。7,8年前に琵琶湖西岸の高島で売っていたほぼ同じ大きさの鮒ずしは、8000円だったような記憶がある。
鮒ずしは琵琶湖のニゴロブナを原料とするものであるから、そこから少し離れた日野で鮒ずしを売っていても不思議ではない。しかし店の人は、その鮒が琵琶湖産ではなく、香川県で養殖したものであると教えてくれた。そのあと、琵琶湖の漁業にくわしい人に聞いてみると、香川県に鮒ずし用に養殖しているのはニゴロブナではなく、ゲンゴロウブナであり、また最近では「近江特産」とされている鮒ずしの原料の一部は中国・韓国からも輸入されているという。帰宅してインターネットで調べてみると、最近の鮒ずしの材料は鮒に限定されなくなり、外来種として問題になっているブルーギルやブラックバスまでも使われているという。鮒ずしのグローバル化である。
事情はカラスミでも同じであるらしい。カラスミの材料はボラであるが、スーパーなどでは鱈を材料にした「にせカラスミ」を売っている。わが国の食品加工業者の知恵には驚くほかない。カラスミは、以前には五島列島の特産だったらしいが、最近では伊豆でも生産するようになり、下田駅の売店でも売っていて一度買ったことがある。その原料に使われているボラは、オーストラリア産であった。ネグリ、ハートの『帝国』を読んだとき、「越境」(border crossing)ということばが印象に残ったが、鮒ずしもカラースミもいまや「越境」の所産である。
カラスミはイタリアなどでも作っていて、友人がイタリア土産だといって時々持届けてきてくれたことがある。そのときイタリアの古い百科事典で調べてみると、イタリアのカラスミ(ボッタルガという)の原料は、ボラのほかにマグロと、さらにもう一種類、日本では採れない魚も使うことを知った。カラスミは、その名の通り中国からきたものらしいが、イタリアと中国ではどちらが先なのであろうか。つまり、カラスミとボッタルガはどういう関係にあるのだろうか。マルコポーロがうどんの製法を中国からイタリアに持ち帰ったので、スパゲッティができたという俗説があるが、彼はボッタルガをイタリアから中国に伝えたのか、それともカラスミをイタリアに持ち帰ったのか。

(2009年5月16日)

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